他を奪うなかれ、他は汝の母体にして 他と汝の結合は、明日の汝を造る 

 真の自己は自己一人ではない。自己を生かすためには、自己の周囲を生かし、自己の周囲と調和していかなければならない。

 相手のことを考えず、自分さえよければという主義では、周囲の者にも嫌われ、そして裏切られ、遂には孤立状態に陥って滅亡してしまう。

 商売にしても、粗悪な品を高く売って、自己の利益のみを追求している店は、やがて客が離れて衰微してしまう。しかし、利益を度外視した商いも永続きしない。要は、店と客とは不離一体のものであるから、常に相互の利益の共通点を見いだしてゆくところに、共存共栄の道がある。

 また人間にしても、男女両性が、常に相手を排斥して調和のない生活を繰り返せば、人類は、百年も過ぎずに地球上から消滅する。

 ゆえに男女両性がお互いにその長所を生かし、短所を補いあって調和するところに、円満な家庭が築かれ、子供も産れて、永遠にその種族が発展してゆく。

 ところが人はややもすると、この自然の法則に逆行し、相手を無視して、自己の利益のみを計ろうとする。しかしそれは一時的には得であっても、綜合結果としては、やがて孤立し没落してしまう。

 またその逆に、昔から「宋襄の仁(そうじょうのじん)」といって無益のなさけ、時宜(じぎ)を得ぬ憐(あわれ)みをかけ、相手方の利益のみに偏することもまた誤りである。それは利他主義といい、後述の利己主義と同様に、遂には自己が滅亡する。したがって人は、何事をするにも、利己、利他の両主義に片寄らず、常に相手と自己の利害が一致するその中心点を見いだして事をするところに、相互が共存共栄できて、永遠に発展する道がある。

 これが自他一如ということであり、自然の法則に順応している。